実在した本当の水戸黄門像が分かる「光圀伝」(冲方丁著)

江戸時代の天下の副将軍、水戸光圀の生涯を描いた歴史小説「光圀伝」(冲方丁著)は、決して「ドラマ・水戸黄門の長編版」ではありません。

 実在の徳川光圀の波瀾万丈の一生を、著者らしい微に入り細にわたった、よく取材された筆致で書いた、まさに力作だといえます。私は冲方の出世作である「天地明察」よりこちらの方が傑作ではないかとさえ思っています。

 将来を約束された超名門、徳川御三家の子息として生まれた光圀。結構ワイルドな暴れん坊の性格で、若い頃はいろいろと問題を起こします。あのテレビの水戸黄門像とはまるで真逆です。しかし聡明な光圀。内心は自問自答を繰り返し、自我の暴走や忍苦を乗り越え、次第に理想の文治社会の実現に挑み始めます。

 全体を貫くテーマは理想や道徳を追い求める「大義」とは何か、というものです。大義を果たすためには、何を取り、何を捨てねばならないのか。節目にぶち当たる度に、光圀は苦悩します。

 そして父と息子、兄弟間の相克の物語でもあります。光圀は若い頃から兄や藩主の父とぶつかりますが、年をへて父の苦悩に気づき、兄とも距離が縮まります。幕府内のいやらしく、ぎくしゃくした官僚組織など、現代のビジネスシーンや家族のストーリーにも通じる部分があり、いろいろな楽しみ方ができる作品だと思います。

 実在した徳川光圀という人物の魅力に触れることができる歴史大作として、歴史ファンだけではなく、幅広い読者層におすすめです。